産婦人科|医師
堀内 縁
心臓に病気があると、妊娠・出産はできないのでしょうか?
心臓や血管に持病をお持ちの方でも、多くは安全に妊娠・出産することが可能です。しかし、中には妊娠によってお母さんと赤ちゃんの両方に命の危険にさらされるケースもあります。 「病名だけで一概に大丈夫、あるいはダメと決まるものではない」ということを知っておくことが大切です。安全な妊娠・出産が可能かどうかは、お一人おひとりの病気の種類と、その時点での体の状態によって異なります。そのためには、まず妊娠によって体にどのような変化が起こるかを知ることが重要です。
妊娠すると、心臓や血管にはどのような変化が起こるのですか?
お腹の赤ちゃんを育てるために、お母さんの体、特に心臓と血管には大きな変化が起こります。これを「妊娠による循環動態の変化」と呼びます。
- 血液量の増加:体を循環する血液の量は、妊娠前の約1.5倍にまで増加します。これに伴い、心臓が一度に送り出す血液の量や心拍数も増え、心臓の仕事量は大幅に増加します。
- お産時の急激な負担:陣痛(子宮の収縮)が起こるたびに、300〜500mlもの血液が心臓に戻ってきます。陣痛は数分おきに何時間も続くため、血圧が高くなり、お産の最中は心臓にとって非常に負担の大きい状態となります。
- 不整脈の増加:妊娠中はホルモンの影響などで、頻脈性の不整脈(脈が速くなる不整脈)が起こりやすくなります。
- 血管への影響:妊娠中は血管の壁が普段より弱く、しなやかになります。元々血管の病気(マルファン症候群など)をお持ちの方は、大動脈が拡大したり、裂けたり(大動脈解離)するリスクが高まるため、特に注意が必要です。妊娠前からの検査をおすすめします。
- 血液が固まりやすくなる:お産時の出血に備えるため、妊娠中は血液が固まりやすい状態(過凝固状態)になります。これにより、足の血管などにできた血の塊(血栓)が肺に飛んでしまう「肺血栓塞栓症」のリスクが、妊娠していない時と比べて約5倍高くなります。
なぜ、このような大きな変化が起こるのですか?
これらの変化はすべて、お腹の赤ちゃんに十分な酸素と栄養を届けるための、お母さんの体の自然な適応です。赤ちゃんは胎盤(たいばん)を通じてお母さんから酸素を受け取っているため、母体は胎盤への血流を最大限に増やすよう変化するのです。



