病院について
心臓手術は技術の進歩により、安全性は大きく向上しました。今や、単に手術の成績を求めるだけでなく、 患者さんのQOL(生活の質)をいかに向上させるかが求められる時代へと変化しています。
このような変化のなかで、当院は、患者さんが治療後にどのような生活を送りたいのかを考えた治療を目指し、 1996年に全国に先駆けてMICS(ミックス:小切開低侵襲心臓手術)を開始し、現在は3D内視鏡下による、 より身体への負担が少ないMICSを導入しています。

MICS(ミックス)は、手術の術式ではなく手術への アプローチ(方法)の一つです。一般的な心臓手術では、 胸の正面の骨(胸骨)を約20cm切開しますが、MICSでは これを切開せず、肋骨の間から10cm以下の小さな切開で 手術を行います。当院では、狭心症や心筋梗塞後に対する 冠状動脈バイパス術、心臓弁膜症(大動脈弁・僧帽弁・ 三尖弁)などの患者さんが適応となります。
切開創が小さく、胸骨を切らないため、患者さんの身体への負担を大きく軽減できます。

皮膚切開は非常に小さいため、出血量、輸血量が少なくて済みます。

傷が目立ちにくくなります。
術野が狭くなることで手術の難易度が上がり、手術時間が長くなることがあります。
しかし、当院ではメリットがデメリットを上回ると判断した場合に、MICSを積極的に行っています。
| アプローチ名 | 皮膚切開 | アプローチ詳細 | 対象手術 |
|---|---|---|---|
| 完全3D内視鏡 アプローチ (3D-MICS) |
3㎝+ 内視鏡ポート |
大腿動脈送血、大腿静脈脱血 | 僧帽弁形成術、大動脈弁置換術、心房中隔欠損閉鎖術、不整脈手術 |
| 胸腔鏡補助下右前 小開胸アプローチ (RAT-MICS) |
5㎝ | 第2肋骨間開胸、 上行大動脈送血、 大腿静脈脱血 |
スーチャーレス生体弁を用いた大動脈弁置換術(高齢者) |
| 左前小開胸 冠動脈バイパス術 (MICS-CABG) |
4〜10㎝ | 第4肋骨間開胸、オフポンプ | 左冠動脈に対する3ヶ所以下のバイパス |
| 右側方開胸 直視下アプローチ |
約6㎝ | 第4肋骨間開胸 | 心房中隔欠損閉鎖術、 心室中隔欠損閉鎖術、 部分肺静脈還流異常修復術 |
開胸器を使わず、3㎝程度のさらに小さな切開から3D内視鏡を挿入し、術者は高精細な3Dモニターを見ながら手術を行います。術者だけでなく手術室のスタッフ全員が同じ3D映像を共有できるため、チーム全体で手術への理解が深まります。患者さんにとっては、傷がより小さく目立ちにくいことに加え、開胸器を使わないため術後の痛みが少ないということも大きなメリットのひとつです。


| 弁膜症 | 僧帽弁形成術、僧帽弁置換術、大動脈弁置換術、三尖弁形成術 |
|---|---|
| 虚血性心疾患 | 冠状動脈バイパス術 |
| その他 | 心房中隔欠損症・心室中隔欠損などの心内修復術、不整脈手術、心臓腫瘍 |
下記は入院から退院までの一例です。
患者さんにより異なりますが、およそ半数の方が手術後5日~7日で退院されます。術前から体力の低下がみられる方 などは、入院期間が長くなることがあります。退院後、1週間~2週間程度たってから、お仕事に戻られることが 多いようです。退院にあたっては、ご家族の方の都合等も考慮し、無理のない日程で検討します。
MICSは通常の心臓手術と同様に健康保険が適用されます。また、医療費が高額になった場合は「高額療養費制度」をご利用いただけます。制度を適用した場合の自己負担額は、多くの場合6万円~12万円程度となります(手術内容により変動します)。
当院のMICSによる手術件数は年々増加しており、対象となる疾患も多様化しています。豊富な経験に基づき、安全な医療を提供しています。

手術は一人のスーパードクターだけで成功するものではありません。当院では、全国トップレベルの実績を持つ心臓血管外科と循環器内科の医師が「ハートチーム」を組み、診断から治療、術後管理まで、それぞれの専門知識とスキルを共有し、患者さんにとって最適な治療を提供します。
当院の心臓血管外科は、我が国の心臓外科のパイオニアである榊原 仟先生から、川瀬 光彦先生、龍野 勝彦先生、加瀬川 均先生、高橋 幸宏先生、高梨 秀一郎先生へと引き継がれてきた榊原外科の真髄です。43年間の開心術約33,000件の症例に基づいた標準手術(冠動脈バイパス術、弁膜症手術、大動脈手術)から、内膜摘除を併用したバイパス術、弁形成術、自己弁温存手術、胸腹部大動脈置換術、HOCM手術まで安定した手術成績で行っています。
当院では、全国から患者さんを受け入れています。MICSは比較的短期間での退院が可能です。術後のフォローアップは、お住まいの地域のかかりつけ医と密に連携し、当院への通院回数をできる限り少なくできるよう配慮いたします。
治療が必要かどうかの判断が難しい段階でも、お気軽にご紹介いただければ幸いです。治療適応の判定から方法、時期の選定まで、患者さんとよく相談して決定させていただきます。
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医療の進歩によりこれまで手術しか治療方法が無かった病気でも、カテーテルによる治療が可能となっています。年齢や体力あるいは美容的な問題のため手術ができない方でも、治療を受けることができます。当院では個々の患者さんのご希望に寄り添いつつ、専門施設として最適な治療法を提案しています。
カテーテル治療は、腕や足の付け根の血管からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、心臓の病変部まで到達させて行う治療法です。胸を大きく切開する外科手術と異なり、傷が数ミリと小さく、身体への負担が少ないのが特徴です。
当院では、患者さんの状態に応じて以下のカテーテル治療を行っています。

PCI(冠動脈カテーテル治療)とは、狭くなった冠動脈をカテーテルで広げ、心筋への血流を改善する低侵襲の治療法です。バルーン拡張やステント留置を行い、胸痛や息切れなどの症状改善、心筋梗塞の再発予防に効果があります。当院では熟練した専門チームが安全で迅速な治療を提供しています。

カテーテルアブレーションは、不整脈の原因となる心臓内の異常な電気信号を、カテーテル先端から熱や冷却で焼灼・遮断し正常なリズムへ戻す治療です。開胸を必要としない低侵襲治療で、再発予防や症状の改善が期待できます。当院では3Dマッピングを用いた精密で安全な治療を行っています。
ペースメーカやICD(植込み型除細動器)、CRT(心臓再同期療法)などのデバイス治療は、脈の遅れや致死性不整脈、心不全に対して心臓の電気的働きを補助・制御する治療です。小さな機器を胸部に植え込み、日常生活の安全性とQOL向上を支えます。当院は豊富な症例と専門チームによる万全のサポート体制を整えています。

EVT(末梢血管治療)は、下肢動脈などの血管が狭くなったり閉塞したりする末梢動脈疾患(PAD)に対し、カテーテルを用いて血流を改善する低侵襲の治療です。バルーン拡張やステント留置により歩行時の痛みやしびれを軽減し、生活の質向上が期待できます。当院では専門医が最新デバイスを用いて安全かつ確実な治療を提供しています。

EVAR/TEVARは、大動脈瘤や大動脈解離に対し、カテーテルを使って人工血管(ステントグラフト)を留置する低侵襲治療です。開胸・開腹を行わずに行えるため、体への負担が少なく回復も早いのが特徴です。当院では心臓血管外科・放射線科・循環器内科が連携し、安全性を最優先にした高度なステントグラフト治療を提供しています。

SHDインターベンションは、心臓弁膜症や心房中隔欠損などの構造的心疾患に対し、カテーテルを用いて治療を行う先進的な低侵襲治療です。TAVI(経カテーテル大動脈置換術)やMitraClip(経皮的僧帽弁形成術)、ASD(心房中隔欠損)/PFO(卵円孔開存)閉鎖など、開胸せずに行える治療が中心で、高齢の方や手術リスクの高い患者さんにも適応が広がっています。当院では専門チームが連携し、安全で質の高い治療を提供しています。

小児カテーテル検査・治療は、先天性心疾患をもつお子さまの心臓の状態を詳しく評価し、必要に応じてカテーテルで治療を行う低侵襲の医療です。バルーン拡張や閉鎖栓を用いた治療により、開胸手術を避けられる場合もあります。当院では小児循環器専門医と多職種チームが、安全性とお子さまの負担軽減を最優先に診療を行っています。

当院では、救急搬送される急性心筋梗塞や弁膜症による重症心不全を数多く受け入れ、24時間365日、緊急カテーテル治療を受けられる体制を整えています。必要に応じて、Impella・IABP・ECMOなどの補助循環を組み合わせ、全身の血流を保ちながら心臓の回復をサポートします。多職種からなるチームスタッフが連携し、安心して治療を受けられる体制を整えています。
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 腹部/胸部ステントグラフト内挿術(EVAR/TEVAR) | 64 | 69 | 81 | 99 | 70 |
| 末梢血管形成術(EVT) | 99 | 109 | 257 | 283 | 231 |
| 経皮的心室中隔焼灼術(PTSMA) | 28 | 31 | 31 | 36 | 38 |
| 僧帽弁クリップ術(MitraClip) | 60 | 74 | 60 | 64 | 64 |
| 大動脈弁置換術(TAVI/TAVR) | 206 | 300 | 318 | 319 | 348 |
| 植込み型不整脈治療機器手術 | 431 | 519 | 553 | 546 | 572 |
| アブレーション | 941 | 1,066 | 1,080 | 1,185 | 1,277 |
| 経皮的冠動脈形成術(PCI) | 1,201 | 1,177 | 1,049 | 1,124 | 1,064 |

心臓病の治療は、一度の手術やカテーテル治療で終わりではありません。その多くは、生涯にわたって注意深く管理し、付き合っていく必要のある、長い道のりです。だからこそ当院は、患者さんの身体への負担が少ない循環器内科治療が、この長い道のりを共に歩むための重要なパートナーシップだと考えます。症状を和らげること、病気の進行を抑えることで患者さん一人ひとりの大切な人生の質をできるだけ長期的に維持・向上させること。それが私たちの目指す医療です。
当院の循環器内科治療は、病気を管理するだけでなく、患者さんの人生そのものを支えるという視点を大切にしています。それは、最新の医学的知見と、患者さんの人生への尊重を融合させた、包括的なアプローチです。手術やカテーテルを用いない内科治療は、患者さんの身体への負担を最小限に抑えながら、継続的な外来フォローを通じて心臓病を管理します。私たちはこれを、単なる投薬ではなく、患者さんと共に歩む「伴走」であると捉え、以下の3つの要素を柱としています。

榊原記念病院は、多様な循環器疾患に対し、豊富な臨床実績と最新の知見に基づいた専門性の高い内科治療を提供しています。各分野のエキスパートが、患者さん一人ひとりに最適な治療戦略を立案・実行します。
心不全は、息切れやむくみなどの症状を伴う慢性疾患です。当院では、最新の治療指針に基づいた薬物療法を段階的に導入・調整するだけでなく、心不全・心筋症治療部門の専門チームによる回診やカンファレンスを通じて、再発予防を含めた最適な治療方針を決定します。生活指導や心臓リハビリテーションとも密接に連携し、長期的な病状管理を徹底します。
動悸や脈の乱れを引き起こす不整脈に対し、抗不整脈薬や抗凝固薬を用いた内科治療を行います。症状の改善だけでなく、脳梗塞などの合併症予防も重視し、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を提案します。必要に応じて、カテーテル治療やデバイス治療との適切な使い分けを行います。
心筋そのものに異常が生じる心筋症に対し、薬物療法を中心に症状緩和と進行抑制を図ります。特に、肥大型心筋症(HCM)や心臓アミロイドーシスに対する新しい薬剤治療も導入しています。当院は、米国基準を満足する本邦唯一の「肥大型心筋症センター」であり、経カテーテル治療(PTSMA)と外科的中隔心筋切除術において国内最大の実績と有効性を誇ります。この圧倒的な専門性を背景に、最適な治療法を選択します。
高安動脈炎や心臓サルコイドーシスなど、免疫や炎症が心臓や血管に影響を及ぼす希少な疾患に対しても、専門的な診断と治療を行っています。これらの疾患に関する公的ガイドラインの作成は、当院の医師が中心的な役割を担い行っており、国内の治療をリードする立場にあります。多診療科が一丸となり、診断から免疫抑制治療、外科治療まで一貫して対応します。
心不全や心筋梗塞の発症・進行には、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病が深く関わります。当院では、これらの疾患を早期から適切に管理する予防的内科治療に力を入れています。さらに、心臓病の重要なリスク因子である肥満に対応するため、「循環器肥満外来」を新設し、より積極的な予防医療に取り組んでいます。
これらの高度な専門治療は、一人の医師の力だけでなく、病院全体の多職種チームによって支えられています。

循環器専門医、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどが連携し、治療だけでなく、服薬管理や日常生活の不安まで含めたサポートを行います。
「治す」だけでなく、「安心して暮らす」ことを支える内科治療を目指しています。