心臓弁膜症の治療方法とは ~MICSやカテーテル治療、ロボット支援下手術について解説~

心臓弁膜症の治療方法とは ~MICSやカテーテル治療、ロボット支援下手術について解説~のイメージ

心臓弁膜症とは、心臓の中で血液の逆流などを防ぐはたらきをしている“弁”がうまくはたらかなくなることによって、心臓に強い負荷が生じる病気です。初期段階では自覚症状のない方もいますが、進行すると心不全などの症状が現れることがあります。

このページでは、心臓弁膜症の主な治療方法についてご紹介します。

心臓弁膜症とは?

心臓には4つの部屋があり、それぞれの部屋の間に血液の逆流を防ぐ“弁”がついています。弁にはそれぞれ、三尖弁(さんせんべん)、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁という名前がついています。

▲それぞれの弁の位置

心臓弁膜症には、弁の開きが悪くなることによって血液が滞る“狭窄症(きょうさくしょう)”と、弁がうまく閉じなくなることによって血液が逆流してしまう“閉鎖不全症(逆流症)”があり、異常が生じた弁の種類によって“大動脈弁狭窄症”や“僧帽弁閉鎖不全症”などと呼ばれます。

心臓弁膜症の治療

軽度の心臓弁膜症であれば積極的な治療を行わず、薬物療法で様子を見ることもあります。しかし、一度壊れた弁は自然に元に戻ることはないため、病気が進行した場合には“カテーテル治療”や“手術治療”といった治療が検討されることが一般的です。

治療方法を決める際は、病気の種類や進行度合い、患者さんの全身状態に合わせて医師と相談して決定することが大切です。

以下では、それぞれの治療方法についてご紹介します。

心臓弁膜症のカテーテル治療

カテーテル治療とは、血管に“カテーテル”と呼ばれる細い管を入れて行う治療方法です。

心臓弁膜症に対するカテーテル治療としては、大動脈弁狭窄症に対する“経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)”や、僧帽弁閉鎖不全症に対する“経カテーテル的僧帽弁修復術(マイトラクリップによるカテーテル治療)”などが挙げられます。

心臓弁膜症の手術治療

心臓弁膜症では、壊れた弁を形成して機能を改善させる“弁形成術”や壊れた弁の代わりに人工弁を入れる“弁置換術”などが検討されます。以下では、それぞれの手術方法についてご紹介します。

弁形成術とは

弁形成術とは、もともとある心臓の弁を温存し、問題のある箇所だけを形成・修復する手術方法です。主に僧帽弁や三尖弁に生じた心臓弁膜症に対して検討されることが一般的です。

弁形成術では、体に人工弁などの異物を留置することがない分、治療後に抗凝固剤などの治療薬を長期間服用しなくてよいというメリットがあります。一方で病気が進行しており、弁の損傷が大きい方にはこの手術方法は行えません。

弁置換術とは

弁置換術とは、自分の弁の代わりに人工弁を入れることによって、弁の機能を回復させる手術方法です。使用される弁には“機械弁”と“生体弁”があり、それぞれに特徴が異なります。以下では、機械弁と人工弁の違いについてご紹介します。

機械弁・生体弁の違いとは

機械弁と生体弁では、原材料の違いから術後の管理や耐久性が異なります。

機械弁とは、カーボンでできた人工弁のことをいいます。耐久性に優れている一方、血栓が付きやすいため生涯にわたって抗凝固薬の服用が必要となることが一般的です。

一方、生体弁とは、ブタの大動脈弁やウシの心膜などを原材料に作られた人工弁を指します。機械弁と比較すると血栓は付きにくく、抗凝固薬の服用も必要なくなる場合があります。しかし耐久性が弱く、およそ10年後に再治療が必要になる可能性があります。

心臓弁膜症の体に負担が少ない手術方法

従来、心臓手術では胸の中央の皮膚を20〜25cmほど切開して、胸骨を切り開いて行う“胸骨正中切開”が行われることが一般的でした。

しかし、近年はより体に負担のかかりにくい手術方法が多く開発されています。このような手術方法を“低侵襲心臓手術(MICS)”といいます。

以下では、心臓弁膜症で検討される主なMICSについてご紹介します。

完全3D内視鏡アプローチ(3D-MICS)とは

完全3D内視鏡アプローチ(3D-MICS)とは、片胸の皮膚を3cm切開し、肋骨(ろっこつ)の隙間から3D内視鏡や手術器具を入れて行う心臓手術です。胸骨正中切開と比較すると、傷が小さく胸骨を切り開く必要もないため、痛みや出血が少なく術後の回復がより早くなることが期待されます。

また3D内視鏡で内部を写しながら手術を行うため、内部の状態を立体的に観察しながらの手術が可能です。加えて、開胸器を使用する必要がないため、患者さんの痛みも軽減されるといわれています。

3D-MICSは、心臓弁膜症の中では僧帽弁・大動脈弁・三尖弁に生じるものに検討されることが一般的です。

ロボット支援下手術とは

ロボット支援下手術とは、手術用ロボットを用いて行う手術のことです。片胸に小さな穴を複数個開け、肋骨の間から3D内視鏡とロボットアームを入れて手術を行います。術者は患者さんのそばから離れ、コンソール(操縦台)に向かって座り、3D内視鏡の映像を見ながらロボットアームを操作して手術を行います。

ロボット支援下手術では、MICSよりもさらに小さい傷で治療が行えるほか、手ブレ防止機能のついた緻密な作業に対応可能なロボットアームで治療を行えることが特徴です。

なお、心臓弁膜症では、僧帽弁形成術や三尖弁形成術の際に検討されることが一般的です。

受診の希望の方へ

心臓弁膜症にはさまざまな種類があり、病気の種類や進行度合い、患者さんの全身状態によって治療方針が検討されます。近年はカテーテル治療のほか、低侵襲心臓手術(MICS)やロボット支援下手術など、手術治療でも体の負担が軽減されたアプローチ方法が登場していますので、治療方針を決める際は医師とよく相談して決定することが大切です。

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帝国大学医学部附属病院

帝京大学医学部附属病院は、総合病院のため、合併症が多くある患者さんでもほかの診療科の医師と協力しながら治療を行うことができます。手術支援ロボットダビンチを用いて、低侵襲心臓弁膜症手術(僧帽弁形成術等)を行っています。

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休診日
日曜・祝日・年末年始(12月29日~1月3日)、創立記念日(6月29日)

帝京大学医学部附属病院について

帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科 主任教授
下川 智樹
心臓弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、心房中隔欠損症へ
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