低侵襲冠動脈バイパス手術(MICS-CABG)とは ~虚血性心疾患に対する治療法を解説~

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狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)などの“虚血性心疾患”では、“冠動脈バイパス手術(CABG)”と呼ばれる手術治療が検討されることがあります。冠動脈バイパス手術とは、血流の悪くなった冠動脈の代わりに血液の“迂回路”となる血管をつなぐことで、心臓の筋肉(心筋)に栄養を与える治療方法です。

心臓手術は患者さんの体に強い負担がかかるため、近年ではより体に負担のかかりにくい手術として“低侵襲冠動脈バイパス手術(MICS-CABG)”が広く行われています。このページでは、冠動脈バイパス手術の概要や低侵襲冠動脈バイパス手術の特徴などについてご紹介します。

冠動脈バイパス手術(CABG)とは?

冠動脈バイパス手術とは、血流の悪くなった冠動脈の代わりに“迂回路”となる血管を作ることによって、心筋へ血液が流れるようにする手術のことです。迂回路となる血管は胸や腕、胃、下肢などから切り取って持ってくることが一般的です。

複数の冠動脈で血流が悪くなっている場合、1回の手術で複数箇所の迂回路を作ることもあります。

冠動脈バイパス手術の適応疾患

冠動脈バイパス手術は、狭心症や心筋梗塞など“虚血性心疾患”で検討されることがあります。

▲狭心症・心筋梗塞を起した人の冠動脈の様子

狭心症とは何らかの理由で冠動脈が狭くなり、心筋に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなることによって胸の痛みや圧迫感などの症状が現れる病気です。

また、心筋梗塞は血栓などで冠動脈が完全に詰まり、心筋が壊死(えし)することで強い胸の痛みが生じる病気です。心筋梗塞は命に関わることもある病気として知られています。

冠動脈バイパス手術に至る前の治療

虚血性心疾患では、病気の進行度合いや患者さんの全身状態に合わせて、冠動脈バイパス手術を選択する前に“薬物療法”や“カテーテル治療”などの治療方法が検討されることがあります。

以下では、まず薬物療法とカテーテル治療について簡単にご紹介します。

薬物療法

薬物療法では、胸の痛みなどの“発作”を予防する治療薬や、心筋梗塞の原因となる血栓ができるのを防ぐ治療薬などが検討されます。これらの治療薬を服用していても発作が治まりにくい場合には、カテーテル治療や手術治療などの治療法が検討されます。

カテーテル治療

カテーテル治療とは、血管に“カテーテル”と呼ばれる細い管を通して行う治療方法です。虚血性心疾患に対して行われるカテーテル治療は“経皮的冠動脈形成術(PCI)”と呼ばれます。

経皮的冠動脈形成術では、カテーテルを冠動脈の血流が悪くなっている部分まで進め、そこでカテーテルの先端についたバルーンを膨らませることで、冠動脈の血流を改善させます。また、再び血流が悪くなることを防ぐために、“ステント”と呼ばれる金属の筒を留置することが一般的です。

低侵襲冠動脈バイパス手術(MICS-CABG)とは?

前述のとおり、心臓手術は患者さんの体に負担がかかりやすい手術といわれています。

そこで近年は、病気の進行度合いや患者さんの全身状態と相談しながら、より負担がかかりにくい冠動脈バイパス手術を検討することもあります。このような冠動脈バイパス手術を“低侵襲冠動脈バイパス手術(MICS-CABG)”といいます。

以下では、低侵襲冠動脈バイパス手術の特徴をご紹介します。

人工心肺装置を不使用で体に負担がかかりにくい

低侵襲冠動脈バイパス手術は“人工心肺装置”を使用しない分、体に負担がかかりにくいといわれています。人工心肺装置を使用しない冠動脈バイパス手術のことを“オフポンプ・バイパス手術”と呼びます。

従来の冠動脈バイパス手術では、心臓を一時的に止めて治療を行う必要があったため、術中に人工心肺装置を使用する必要がありました。

人工心肺装置とは手術中、心臓や肺の代わりに血液を全身に送るための装置です。この装置を使用すると心臓の動きを一時的に止めることができる一方、炎症反応や血液凝固などが起こりやすくなるといわれており、体に負担がかかりやすいとされてきました。

人工心肺装置を使用しない、オフポンプ・バイパス手術では、心臓が動いている状態で“スタビライザー”などと呼ばれる器具を用いて手術を行います。スタビライザーで心臓表面の一部分だけの動きを止め、その間に迂回路となる血管をつなぎ合わせます。人工心肺装置を使用しない分、体に優しい手術といえます。

傷が小さく術後の回復が早い

低侵襲冠動脈バイパス手術では、より小さな傷で手術を行うため、従来の手術と比較して術後の回復が早くなることが期待できます。

従来、心臓手術といえば胸の中央の皮膚を20〜25cmほど切開し、胸骨を切り開いて行う“胸骨正中切開”で心臓に触れることが一般的でした。しかし、このような手術方法では患者さんの負担が大きくなりやすく、傷も大きいため細菌感染のリスクが生じやすいなどの問題点がありました。

低侵襲冠動脈バイパス手術では、片胸の皮膚を数cm程度切開し、肋骨(ろっこつ)の一部を切り開いて手術を行うなど、従来と比較すると小さな傷で手術をすることが可能です。人工心肺装置を使用しないオフポンプ・バイパス手術と併用して行うことが一般的です。

手術用ロボットが使用されることもある

また、低侵襲冠動脈バイパス手術では、手術用ロボットの使用が検討されることもあります。手術用ロボットを用いた手術は“ロボット支援下手術”などと呼ばれます。

ロボット支援下手術では、片胸に小さな穴を複数開け、肋骨の隙間からロボットアームや3D内視鏡を挿入して治療を行います。特徴的なのは、術者が患者さんの体のそばから離れてコンソールに座り、ロボットアームを操作して治療を行うことです。ロボットアームには手ぶれ防止機能がついており、緻密な作業が可能となっています。

ロボット支援下手術でも人工心肺装置は使用しないことが一般的です。

受診希望の方へ

虚血性心疾患では、病気の種類や患者さんの全身状態に合わせてさまざまな治療方法が検討されます。

近年では、医学の進歩によって体に負担のかかりにくい低侵襲の治療も多く登場しています。治療方針を決める際は、治療の選択肢について医師と相談して決定することが大切です。

榊原記念病院では、経皮的冠動脈形成術(PCI)などのカテーテル治療や低侵襲冠動脈バイパス手術(MICS-CABG)を行っています。

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帝国大学医学部附属病院

帝京大学医学部附属病院は、総合病院のため、合併症が多くある患者さんでもほかの診療科の医師と協力しながら治療を行うことができます。手術支援ロボットダビンチを用いて、低侵襲心臓弁膜症手術(僧帽弁形成術等)を行っています。

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帝京大学医学部附属病院について

帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科 主任教授
下川 智樹
心臓弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、心房中隔欠損症へ
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