三尖弁閉鎖不全症とは

三尖弁閉鎖不全症とはのイメージ

三尖弁閉鎖不全症(さんせんべんへいさふぜんしょう)とは心臓弁膜症の1つで、心臓の中にある“右心房”と“右心室”と呼ばれる部屋の間にある“三尖弁”がうまく閉じなくなることにより、血液が逆流してしまう病気です。

このページでは、三尖弁閉鎖不全症の概要や原因、治療方法などについてご紹介します。

三尖弁閉鎖不全症とは?

心臓には4つの部屋があり、それぞれの出入り口に“弁”がついていることによって血液の逆流を防いでいます。閉鎖不全症(逆流症)では、この弁がうまく閉じなくなってしまうことによって、心臓内で血液の逆流が起こり、心臓に負荷がかかってしまいます。

          ▲三尖弁閉鎖不全症の人の弁の様子

閉鎖不全症は心臓にある4つの弁全てに生じる可能性があります。中でも、右心房と右心室の間にある“三尖弁”に生じた場合を“三尖弁閉鎖不全症”といいます。

三尖弁閉鎖不全症の原因

三尖弁閉鎖不全症の原因は、主に弁の構造異常によるものとそうでないものに区分されます。以下では、それぞれの原因についてご紹介します。

弁の構造異常による三尖弁閉鎖不全症

三尖弁閉鎖不全症にかかる方の中には、生まれつき三尖弁に異常のある方もいます。そのほか、リウマチ熱や感染性心内膜炎、三尖弁逸脱症、カルチノイド症候群、マルファン症候群などの病気が原因で弁に異常が生じる方もいます。

弁の構造異常以外による三尖弁閉鎖不全症

弁そのものに構造異常がなくても三尖弁閉鎖不全症が生じることがあり、発生頻度としてはこちらのほうが高いといわれています。たとえば、ほかの弁の異常や肺高血圧症などによって右心室に負担がかかると、三尖弁閉鎖不全症へ発展することがあります。

また、心筋梗塞(しんきんこうそく)によって右心室のはたらきが悪くなったために起こる場合や、ペースメーカーを入れたことにより起こる弁の接合不全が原因の三尖弁閉鎖不全症などもあります。

三尖弁閉鎖不全症の症状

三尖弁閉鎖不全症は、軽症・中等症では無症状であることが一般的です。しかし重症になると、全身の倦怠感や腹水(腹腔の中に水がたまった状態)による腹部の不快感、足のむくみ、黄疸(おうだん)(肌や白目が黄色く濁った状態)などの自覚症状が現れます。

三尖弁閉鎖不全症の検査方法

三尖弁閉鎖不全症は、無症状のうちに健康診断の聴診や心電図検査などで発見されることもあります。確定診断や病気の進行度合いを調べるためには、心臓超音波(心エコー)検査が重要です。また、手術治療が検討される場合などには、血管に“カテーテル”と呼ばれる細い管を通して行う“心臓カテーテル検査”が行われることがあります。

三尖弁閉鎖不全症の治療方法

自覚症状のない軽症の三尖弁閉鎖不全症では治療を行わないことが一般的です。しかし、症状が現れてきた場合、まずは症状に対する薬物療法や原因疾患に対する治療が検討されることが一般的です。また、重症化して薬物療法や原因疾患に対する治療を行っても症状が改善されない場合には、手術治療が検討されます。

三尖弁閉鎖不全症の薬物療法

三尖弁閉鎖不全症では、足のむくみや腹水などの右心不全症状が現れた場合に薬物療法が検討されます。主な治療薬として、尿量を増やす“利尿薬”などが検討されます。

三尖弁閉鎖不全症の手術治療

三尖弁閉鎖不全症の手術方法は大きく分けると3つあり、病気の進行度合いや弁の状態などに応じて検討されることが一般的です。

以下では、それぞれの手術方法について簡単にご紹介します。

主な手術方法

  • ・弁輪形成術(弁輪縫縮術)……弁のついている部分(弁輪)を形成することによって、拡張・変形した弁輪を元の形に整える治療方法。直接弁輪を縫って戻す方法と、弁輪に人工リングを縫い付ける方法がある。
  • ・三尖弁形成術……弁尖の形を整えることによって機能を回復させる治療方法。主に弁輪形成術のみでは再発のリスクが高い場合に検討される。
  • ・弁置換術……壊れた三尖弁を取り除き、代わりに人工弁をつける手術方法。

三尖弁閉鎖不全症の体に負担がかかりにくい手術治療

従来、三尖弁閉鎖不全症などに対する心臓手術は、胸の中央の皮膚を20~25cmほど切開し、胸骨を切り開いて行うことが一般的でした。しかし、近年ではより体に負担がかかりにくい手術方法が多く開発されています。このような手術治療を“低侵襲心臓手術(MICS:ミックス)”といいます。

以下では、主なMICSについてご紹介します。

低侵襲心臓手術(MICS)とは

MICSの中には、片胸の皮膚を数cmほど切開し、肋骨(ろっこつ)の隙間から心臓へ近づく手術方法があります。このような手術方法では、胸骨正中切開と比較すると傷が小さく、骨を切り開く必要がないため、術後の回復がより早くなることが期待されます。

また、近年は3D内視鏡を使用した3D-MICSを行う医療機関もあります。3D-MICSでは、小さい穴から3D内視鏡を入れて手術を行うため、内部を立体的に詳しく見ることができるほか、肉眼で行うときのように肋骨の間を広げる“開胸器”を使用しない分、痛みが少ないといわれています。

ロボット支援下手術とは

ロボット支援下手術とは、先程紹介した3D-MICS同様、胸に小さな穴を開け、肋骨の隙間から3D内視鏡やロボットアームを挿入して行う手術治療です。特徴的なのは、術者が患者さんの体から離れてコンソールに座り、3D内視鏡で映し出された映像を見ながらロボットアームを操作して手術を行うことです。ロボットアームには手ブレ防止機能がついており、より細かい作業が得意であるといわれています。

2022年3月現在、三尖弁閉鎖不全症に対するロボット支援下手術としては三尖弁形成術が保険適用となっています。

三尖弁閉鎖不全症の治療のタイミング

三尖弁閉鎖不全症と診断されても無症状で軽症の場合には、治療は検討されません。また仮に症状がある場合でも、原因疾患を治療することで改善し、手術治療は不要となる場合もあります。

ただし、三尖弁の弁輪が拡大してしまっている方や右心不全の症状が強い方の場合には、手術治療が検討されることが一般的です。自身の病気の状態や治療のタイミングについては医師とよく相談するようにしましょう。

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三尖弁閉鎖不全症にはさまざまな治療方法があり、病気の進行度合いや患者さんの全身状態に併せて治療方針が決定されます。近年は、患者さんの体に負担のかかりにくい治療もあります。

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帝国大学医学部附属病院

帝京大学医学部附属病院は、総合病院のため、合併症が多くある患者さんでもほかの診療科の医師と協力しながら治療を行うことができます。手術支援ロボットダビンチを用いて、低侵襲心臓弁膜症手術(僧帽弁形成術等)を行っています。

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帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科 主任教授
下川 智樹
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