2018.01.08

心臓に含まれる幹細胞を用いた再生医療の研究

榊原記念病院は、最先端の心疾患治療の研究開発にも積極的に取り組んでいます。近年はことに再生医療が注目されています。当院では、幹細胞を使って重症の心不全を治療する臨床研究、JOKER(c-Kit陽性細胞を使用した日本の陳旧性心筋梗塞患者対象の再生強化治療:Japanese OMI treatment with c-Kit-positive cells for Enhanced Regeneration)を2017年中に開始する予定です。

再生医療について、当院の総合診断部副部長である細田徹医師に聞きました。

――幹細胞を使った心不全の治療研究とは、どのような研究ですか?
また、その研究はいつから開始されますか?

心臓組織に含まれる幹細胞には、心臓の筋肉や血管細胞を作る働きがあります。既存の治療技術では、手を尽くしても治すことができない心疾患はまだ多くあります。そうした難治性の心疾患への治療を幹細胞が生来保有している再生機能を活かすことによって実現しようとする試みが、現在、世界中で進められています。

米国では既に、20人程の重症心不全患者さんに幹細胞を移植する臨床試験が行われました。この試験では、幹細胞移植を受けた患者さんにおいて、この治療を受けなかった患者さんよりも、優れた心臓ポンプ機能の改善と、息切れや動悸といった自覚症状の軽減が認められました。また目立った副作用の増加も報告されていません。

当院では、米国で行われた臨床試験と同様に、心筋梗塞の発症から数年が経過した心不全患者さんを対象に治療を施す臨床研究を計画しています。この研究では、患者さんの心臓組織から幹細胞を採取し、その細胞を培養皿上で6〜8週間ほどかけて育てたあと患者さんの心臓血管内に戻します。当院では6人の患者さんを対象に、この治療を行う予定です。1件目の治療は2017年内に実施し、来年度末までに、6件全ての治療を行う計画です。

――この研究により、将来どのような病気が治療可能になりますか?

いま進めている研究は、薬物治療に加えてバイパス手術を受けたにも関わらず、心臓のポンプ機能の改善が乏しい重症の心不全患者さんを対象としています。

現在、こうした患者さんに有効な治療法は心臓移植しかありませんが、特に高齢の患者さんは、心臓移植の対象外となっています。幹細胞を使った再生医療は、将来、こういったこれまで治療手段の無かった方々の治療選択肢となる可能性があります。

将来的には、非虚血性の心不全や、小児や成人の先天性心疾患患者さんに対しても、この幹細胞治療の開発を進めたいと考えています。

――この研究が順調に進んだ場合、いつ頃、一般の患者さんに使われるようになりますか?

当院での研究後は、より大規模な医師主導型の臨床試験や製薬企業による臨床試験へと進みます。ですから今後の見通しについて、確実なことはまだ言えませんが、再生医療については、5年程先の長期的な視点で考える必要があると思います。

~プロフィール~
氏名:細田 徹
<略歴>
1970年 東京生まれ。1994年 東京大学医学部医学科 卒業。2000年 東京大学大学院医学系研究科 修了。東大病院 循環器内科勤務の後、ニューヨーク医科大学とハーバード大学への留学を経て、2011年より東海大学 創造科学技術研究機構 特任准教授。2017年より榊原記念病院。医学博士、認定内科医。